遠い日 [往 年]
海と空を一望する野がある
切株に腰を下ろして眺めて
「十年は一昔あぁ暑い夏」
と口ずさみ 遠い日を思う
オーシャンブルー浄土ヶ浜
さっぱ船影が雲遊萍寄する
三陸の幻想の景色に重なる
涼風が急坂を昇りはじめる
翼を靡かせて海と空を飛ぶ
三陸の壮観な風景が広がる
大きく息を吸って抱え込み
遠い日の三陸岸を遊覧する
面 影 [往 年]
今、養老渓谷を歩く
山々の端をかすめて
風と共に舞いながら
養老川に降りてきた
川底をすべる紅葉は
去る秋に舞い降りて
時を経て流れている
振り向けば頬染めて
戸惑い恥じらう紅葉
遠日の面影に重なる
愛おしく寄添う二人
行く人も 来る人も
未来永劫微笑み祈る
冬 草 [往 年]
その夕べは風のない静かな岸辺
やはりここは金流川のほとりだ
幼き日に兄等と釣りをした川だ
兄が釣りに行くよと呼んでいる
その雪道を野ウサギと狐が歩く
やはりここは僕たちの原っぱだ
幼い日に兄と朝が晩まで遊んだ
あの兄が遊ぼうとわたしを呼ぶ
腹減る時も満ちる時も一緒いた
新聞配達も豆腐売りもなんでも
幼い頃からふたりでやり遂げた
疲れた父母の喜びを知っていた
やはりそれは兄が教えてくれた
その生き方が二人を支えている
※
どうしようも無い時
疲れて 眠れない時
兄と歩いた道ばたの
冬草を思い出すのだ
夢 花 [往 年]
仕事の日も
待ち続ける花が
あるとするならば
太陽と月を頼りに
映える面影へ
話しかていたい
風吹く日も
咲き続ける花が
あるとするならば
そのたび毎に
お洒落して
会いに行きたい
陽が昇る朝方も
寄り添い続ける花が
あるとするならば
腕まくらをして
優しく抱きしめて
夢路の花としたい
星 影 [往 年]
遠い処からのたよりを待ちながら
今日という日が段々と離れていく
明日は今日とは違う時空を流れる
語り尽くせないことを残したまま
沈むゆく太陽にさようならと言う
段々とわたしの影が伸びていく
果たしてどこまで伸びるのかと
その天辺を竹の棒で衝いてみる
かぼそい音とともに折れそうな
その影はもう精一杯な気がして
「休んでいいよ」と言いたくなる
その天辺の先が段々ぼやけて
それから蝋燭が消えるように
薄明かりは闇に包まれていく
静寂なる闇が深まるにつれて
隠れていた星が輝きはじめる
野花たちがわたしに寄り添う
わたしを育ててくれた原っぱ
花泉袋の金流川へ続く原っぱ
星明かりに蘇りわたしも蘇る
原っぱを想い出して蘇生する
※ 原っぱ とは
「あげっぱ」に続く野原の道で
花泉郵便局から花泉中学校が
できる前に有った田園の野原
※ あげっぱ とは
田の潅水を目的する天然ダム
沢山の種類の生き物が集まり
魚釣りや水遊びができた楽園
想う人 [往 年]
あのままにした約束を
今でも覚えているかな
僕は ずいぶんと歳を
重ねてしまったのだが
こんな雨の日曜日には
しとしとと 想い出す
それはとても遠いところで
僕の声はもう届きはしない
僕も明日を知らない年月を
すれすれに生きてきたけど
真っ赤に染まる夕暮れ時は
ふらふらと想い出すのです
卯月の陽と風に干した布団は
どこまでも優しくて柔らかい
けふという日は 最後と思い
陽が落ちれば床につくけれど
毎夜 明から暗に入るときは
うすうすらと想い出すのです