冬 草 [往 年]
その夕べは風のない静かな岸辺
やはりここは金流川のほとりだ
幼き日に兄等と釣りをした川だ
兄が釣りに行くよと呼んでいる
その雪道を野ウサギと狐が歩く
やはりここは僕たちの原っぱだ
幼い日に兄と朝が晩まで遊んだ
あの兄が遊ぼうとわたしを呼ぶ
腹減る時も満ちる時も一緒いた
新聞配達も豆腐売りもなんでも
幼い頃からふたりでやり遂げた
疲れた父母の喜びを知っていた
やはりそれは兄が教えてくれた
その生き方が二人を支えている
※
どうしようも無い時
疲れて 眠れない時
兄と歩いた道ばたの
冬草を思い出すのだ
夢 花 [往 年]
仕事の日も
待ち続ける花が
あるとするならば
太陽と月を頼りに
映える面影へ
話しかていたい
風吹く日も
咲き続ける花が
あるとするならば
そのたび毎に
お洒落して
会いに行きたい
陽が昇る朝方も
寄り添い続ける花が
あるとするならば
腕まくらをして
優しく抱きしめて
夢路の花としたい
星 影 [往 年]
遠い処からのたよりを待ちながら
今日という日が段々と離れていく
明日は今日とは違う時空を流れる
語り尽くせないことを残したまま
沈むゆく太陽にさようならと言う
段々とわたしの影が伸びていく
果たしてどこまで伸びるのかと
その天辺を竹の棒で衝いてみる
かぼそい音とともに折れそうな
その影はもう精一杯な気がして
「休んでいいよ」と言いたくなる
その天辺の先が段々ぼやけて
それから蝋燭が消えるように
薄明かりは闇に包まれていく
静寂なる闇が深まるにつれて
隠れていた星が輝きはじめる
野花たちがわたしに寄り添う
わたしを育ててくれた原っぱ
花泉袋の金流川へ続く原っぱ
星明かりに蘇りわたしも蘇る
原っぱを想い出して蘇生する
※ 原っぱ とは
「あげっぱ」に続く野原の道で
花泉郵便局から花泉中学校が
できる前に有った田園の野原
※ あげっぱ とは
田の潅水を目的する天然ダム
沢山の種類の生き物が集まり
魚釣りや水遊びができた楽園
立 葵 [宇 宙]
白雲の流れさえも一緒に
青空は地球を抱えている
立葵の種を 蒔いたのは
一ヶ月ほど前の晴天の日
苗が掌ほどになってきた
明日は雨と予報が流れる
南を仰ぐ土手に植える際
不覚にも後方に転倒する
その場にしばしうずくむ
痛みが遠ざかると周りは
すっかりと闇の中にある
「だいじようぶ?]との声
見回したが 誰もいない
烏骨鶏達の吾を呼ぶ声で
はっと蘇ると明るくなる
果たして あの声は誰か
右手には移植ベラを持ち
左手には立葵の苗ひとつ
遠く南の空を眺めてから
「貴女なの」と立葵を見る
地球は宇宙の流れに乗り
宇宙は地球を抱えている
林羅万象は流れ中にある